白い月という球に

思うまま、わがままに。適当に書き連ねる、つくりものたち。 コメント・トラックバック歓迎です♪

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高野はげっそりした様子で、どかっと腰を下ろした。
胸ポケットからタバコを取り出し、火をつける。

「どうしたんだ?」

僕は高野の隣に腰掛けながら尋ねた。
高野は僕のほうをちらっと見てから、視線を窓の外に向ける。

「……最近、嫌な夢を見るんだ」

高野はタバコを持っていない左手で、髪をかき上げる。

「味噌汁の夢」

僕は危うく、口の中のコーヒーを噴きそうになった。

「味噌汁って」
「味噌汁だよ、味噌汁。ミソスープ! ……なんか、わんこそばみたいに、際限なく出てくるんだよ、味噌汁が。夢の中の俺は、ひたすら、それを平らげ続ける。もう、三日連続だ」

高野は「勘弁してくれ」と小さくつぶやき、大きく息を吐いた。

「それは……大変だね」

僕は他になんて言って良いか分からなかった。
ただ、そんな夢を三日連続で見たら、高野と言えども、さすがに辛いだろうと思った。
高野と僕は、無言で窓の外を眺める。
やがて、高野はタバコの火を消し、「じゃ」と仕事場に戻っていった。
その背中には、哀愁のようなものが漂っていた。
僕は高野と味噌汁のことを考え、悪いとは思いつつ、少し笑ってしまった。



僕が味噌汁の夢のことを尋ねると、一月ぶりに会った高野はからっと笑った。

「ああ、もう、見ないよ」
「そっか、良かったな。結局、なんだったんだろうね」

高野は悠々とタバコに火をつける。美味そうに一服。
煙を吐きながら、目を細めて窓の外を見た。

「……実は、お前とここで話したあともあの味噌汁の夢、見続けたんだ。全部で十日間ぐらいかな。ほんと、毎日死にそうだった」

その頃のことを思い出したのか、高野はくく、と笑った。

「で、最後の日に、いきなりおふくろが出てきたんだ」

僕は、反射的に高野の顔を見る。
高野は僕の顔を覗き込み、にやりとする。

「『ほら、もっと』おふくろは俺に味噌汁を勧める。腹いっぱいで死にそうな俺は、おふくろにもう味噌汁はたくさんだって言ってやった」
「……おふくろさんは、なんて?」
「不思議そうな顔して、『なに、あんた、子供の頃は母ちゃんの味噌汁は日本一だ、って言ってたじゃないかい』って言うんだ。だから、たくさん作ってやったのに、って」

高野はガラスの向こうの空を見上げた。

「目が覚めてぼんやりしてたら、親父から電話が来たよ。ものすごい、取り乱した様子でさ。……おれは、ああそうか、って思った」

高野の母親は三週間ほど前に亡くなった。
それは、僕の耳にも届いていた。

「母親って、すげえよな。俺、味噌汁のことなんか、これっぽっちも憶えてなかったってのに。……ほんと、すげえよ」

僕はなんと言って良いか分からなかった。

「おまえもさ、おふくろさん、大事にしてやれよ」

そう言って、高野は軽やかな足取りで自分の仕事場に戻っていった。
僕は少しの間ぼんやりしてから、しばらくぶりに、実家に電話をかけた。



・・・・・・・・・・・・・・
「味噌汁」のお題で書いたものです。
『みんなで、物語を紡ごう!』コミュより、転載。


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
コメント

あると思いますよ、こういうこと。

僕の場合は、会社でコーヒーカップの取っ手が折れて、その直後、祖母がいくつかと聞かれて92歳と
答えて、天寿まっとうだなんて笑ってた、ちょうどその頃に亡くなってたんです。

ポチッと。
2007/10/10(水) 23:50:33 | URL | 銀河系一朗 #-[ 編集]

銀河系一朗さん、こんにちは。

わー、実際にあるんですね。
わたしはまだ、そういうの、体験したことがないのですが……。
面白いですね~。(と言ったら、不謹慎かな?)

ぽちっと、さんくすです♪
2007/10/11(木) 10:31:44 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]

この話、よかったです。
結構好きです
ユーモラスと真面目な部分が混ざってて。

そういや、
しんは小学校の頃に
おじいちゃん亡くなったんだけど
亡くなる直前の病室にはいれなくて、
親だけ入ってて
病院の外で待っていたんだけど

待ってる時に
それまで、うるさかった自動販売機の音とかが
一斉に静かになりビックリした。
そして、なんとなくおじいちゃんが
近くに来たような気がした。

ちょっとしてから親がでてきて。
おじいちゃんが亡くなったよって。

まぁ、たんなる偶然だとは思うけど
いまでも、あのときのことは心に残っている。
・・・・・・、ごめん、また長い。


2007/10/11(木) 18:53:36 | URL | 見習猫シンΨ #ap6q.jK2[ 編集]

>見習猫シンΨ さん

気に入っていただけたようで、良かったです。
あまり時間かけてない作品ではありますが……(苦笑)

シンさんもそういう体験、されてるんですね~。
羨ましい、といっちゃなんですが(笑)
たぶん、そういう体験って、創作する人にとって財産だと思いますよ~。

長いのは、別に構いません(笑)
2007/10/11(木) 21:59:11 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]
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