白い月という球に

思うまま、わがままに。適当に書き連ねる、つくりものたち。 コメント・トラックバック歓迎です♪

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本屋で立ち読みをしていると、時間を忘れる。
ふと気付いたときには、文庫本を1冊読み終わっていた。
ため息をつき、本を戻す。
足が疲れた。

「すっごい集中力だねえ」
聞き憶えのある声に、ぼうっと横を見ると、Kが立っていた。
「ずっと隣にいたのに、全然気付いてくれないんだもん」
Kは大きな目で、私の顔を覗き込む。
「ね、ね、ご飯食べに行こう? 夕食まだでしょ?」
私の腕を掴み、そのままぐいぐい歩き出すK。
私は、いまだ現実世界に戻りきらない頭で、嫌な奴に会った、と思った。

Kとは同じアパートだった。
その上、部屋は隣同士。
そして、同じ大学、同じ学部、同じ学年……。
入学した当初はいろいろと仲良くしていたのだけれど、そのうち我慢ならなくなった。
Kはいつも違う女の子を連れて歩く。
……しかも、みんな可愛いかったりするのだ。

「ね、ね、ちーちゃんは、ああいう本が好きなの?」
ファミレスでメニューを開きながら、Kが聞いてくる。
「んー、別に。小説なら何でも読む」
和風ハンバーグと、海の幸ドリアで悩む。
今の私にとって、どちらがよりベターな選択か。
「ね、今度、小説貸してよ。ちーちゃんお勧めのやつ。そだ、ご飯食べ終わったら、ちーちゃんち行って良い? そこで、いろいろ選びたいかも。僕、今……」
よし、海の幸ドリアにしよう。
ぽちっと、呼び出しボタンを押す。ぴんぽーん。
「あ、ちょっと待ってよ! 僕、まだ、決まってないんだから!」
ぱたぱたとメニューのページをめくるKを横目で見ながら、私は玲のことを考えた。

玲は私の友達だった。
大学に入ってできた、最初の女の子の友達。
綺麗で、頭脳明晰で、さばさばした性格の子だった。
私は、玲の大人っぽさに、とても憧れた。
玲と私とKは、よく行動を共にした。
あの日。
『ちー、お願い、あのアパートから引っ越して……』
電話越しのくぐもった声。
玲の緊張感が私の中に流れ込む。
玲は電話の向こうで小さく、自嘲するように笑う。
彼女の完璧さは失われてしまった。
きっと、もう、永久に。
私は「いいよ」と言って電話を、玲やKに関する全ての繋がりを、切ってしまいたくなる気持ちを必死で抑えて、玲と向かい合った。

「君が、うちの敷居をまたぐことは、許さない」
私の言葉にKはメニューを繰る手を止め、ぱちくりと瞬きする。
「そんなぁ、昔は毎日のように、喜んで僕を招き入れてくれたのにぃ。ああ、あの美しい日々……」
毎日、は誇張だった。
「私だって、君が悪いとは思っていない。けど」
「ねえ、ちーちゃん」
Kは真面目な顔をする。
「……僕はまだ、あなたに愛の告白すらしてないんだよ?」
愛の告白。
Kは、私から視線を外した。
「暗い部屋で布団に包まって。耳を澄ませて、小さな音だって聞き漏らすまいって、息をひそめて。毎晩毎晩、壁の向こうで安らかに眠っているだろう、あなたの姿をまぶたの裏に描いて。それが小さな幸せで。……あなたは、そんな僕をずっと避けてる。こうやって言葉を交わすだけで良いのに。それだけで、良いのに。それ以上は、何も望まないのに」
全部、私が悪いみたいに。
私はその罪悪感から、Kを避けるのに。
「君は、誰にだってそうやって愛を告白するんでしょ、色男君? ……ほら、ちゃっちゃと頼むもの決めちゃいなよ」
だって、どうしようもないじゃないか。
私は多分、Kを好きにはならない。
それはもうすでに決まっていることなんだから。

それから私たちは無言で食事し、無言でアパートに帰り、無言でそれぞれの部屋に戻った。
目も合わさなかった。
Kは程なく大学から姿を消し、隣の部屋はもぬけの殻となった。
私は内面はともかく、表面上は普通に過ごした。
失ったもの。
その全体像が今の私には見えなかった。
頭の中に、霧がかかる。
かばんの中で、携帯電話が鳴る。
実家からだった。
最近連絡を取ってない。
何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
通話ボタンを押すのも、もどかしい。

『あ、ちーちゃん? 久しぶりー! こっちにはいつ戻ってくるの? もう夏休みでしょ! お父さんもお母さんも楽しみにしてるんだから、早く帰ってきなねー! それにしても、ちーちゃんって子供の頃から全然変わってないん……』
思わず電話を切る。
なんだ、これは。
体中が、一気に覚醒する。

再び鳴り出した電話を手に、私は、自分がKを甘く見ていたことを知った。




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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
コメント

ぞ!
続編はいかに!?
2007/09/24(月) 05:03:24 | URL | ヨヨ子 #-[ 編集]

試しに、長いやつを書いてみました~。
一晩しか寝かせてないので、お見苦しい点があるかもしれません。
しかし、なんか読みにくい……。

>ヨヨ子さん
続編は今のところ予定しておりません(笑)
私の予想では、ちーちゃんは、このままKに押し切られるのではないかと……。
2007/09/24(月) 19:05:23 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]
長いのもいいですね。
ちーちゃん、Kに押し切られちゃうんですね・・(^^;
2007/09/25(火) 18:56:20 | URL | たぬき #osd7LS92[ 編集]

たぬきさん、コメントありがとうございます~。
もし続編があるなら、ちーちゃんの成長物語(?)になるんじゃないかなぁ……。


長いの……そう言っていただけると嬉しいです。
が、やっぱり、大変ですね~。(しみじみ……)

でも、また気が向いたら、長いのも書いてみますね~!
2007/09/25(火) 21:36:49 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]
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