白い月という球に

思うまま、わがままに。適当に書き連ねる、つくりものたち。 コメント・トラックバック歓迎です♪

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しなないさかなは、きもちわるい。

十子(とおこ)は小学校から帰ると真っ直ぐに金魚鉢の前へ向かう。
金魚鉢は畳の上に直に置いてあり、十子はうつ伏せになって両肘で頭を支えながら金魚鉢を眺める。
そうして、夕ご飯の時間に母親に呼ばれるまで、じいっと、金魚を見つめているのだ。
この間の夏祭りで十子がすくった二匹の金魚。
水の中を涼しげにゆったりと舞う。
十子は毎日その金魚の死だけを、ただ待ち望む。

「死なない魚は、気持ち悪い」
十子は言う、お祭りの金魚は死ななければならない、と。
「そうじゃなきゃ、落ち着かないの。お祭りがまだ続いてるみたいで、落ち着かない。怖いの、何かがわたしを迎えに来るような気がして」
こんなところにいる魚は死んでいなくてはならない、と十子は二匹の金魚を見つめながら言う。

周りの大人から神童と呼ばれ、たくさんの人間の生々しい視線にさらされている十子は、それでも毅然として綻びなく日々の生活を送っている。
愚かにならず、周りの人間に対して媚を売ることなく、ただ彼女にあらかじめ組み込まれたペースで彼女は生きる。
田舎の小さな町だ。
夏祭りで十子は他の子供と同じようにヨーヨー釣りを、わたあめをねだる。
毎年、祭りから家に戻った瞬間に、興味を失われ放っておかれるそれらの品々のすべてを僕が回収することになる。
彼女は金魚が死ぬのを静かに待っている。

(彼女は自分がこの町を出ていく日を静かに予感している。)

十子は毎日午後六時きっかり、金魚にえさを与える。
「ご飯をあげないのはだめ。ご飯をあげてても、死ななくちゃいけない。確かにこれは水だよ、でもこんな少しなのは水じゃないの。たくさんなきゃ水じゃないの。だからこんな少しの水で満足してちゃだめなんだ」
……満足しないで、死ぬべき?
十子は大きく頷く。

ある日、金魚が一匹、死んだ。
十子は泣いた。
金魚鉢の中にひとつまみの悲しみもない、と泣いた。
過度に潔癖で、単純化されたその世界の中で、死は何の意味も持たなかった。
一匹になった金魚は、二匹でいたときよりもずっとずっと、自由に世界を舞う。

死なない魚は、気持ち悪い。
でも、わたしは、この世界を生きていかなくてはならないの。





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