白い月という球に

思うまま、わがままに。適当に書き連ねる、つくりものたち。 コメント・トラックバック歓迎です♪

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知人と甘味処に入った。
クーラーでギンギンに冷えた店内は、火照った体から少し乱暴に熱を奪う。

「白玉クリームあんみつを」
「僕も、同じものを」

窓の向こうには、道を歩く人の群れ。
視線を戻す。

「甘いもの、好きなんですか?」
「ええ、まあ」

彼の視線に混じる好意を、軽く微笑んで受け流す。
いい人だ。
間違いなく、彼はいい人なのだけれど。

とん。
目の前に置かれた、白玉クリームあんみつ。
ガラスの容器はすでに、大粒の汗をかいていた。

いただきます、とスプーンを手に取ったところで、
黒蜜の香り。

…夏の、記憶。

「あの、カブトムシって飼ったことあります?」

思わず聞いていた。聞いてすぐに後悔した。
彼は都会育ちだと前に言っていた。

「いや、ないです。飼ってたんですか?」
「…はい、子供の頃に。毎年、幼虫から育てていました」

カブトムシによくあげていた餌の蜜が、たしか黒蜜のような香りだった。
かごの中の湿った土の匂いが、不意に立ち現れる。

「さなぎがね、ちゃんと成虫にならなかった年があって…。結局、そのまま死んじゃったんです。すごく、悲しかった」

体の半分だけ成虫になったそのカブトムシを見て、父は「奇形だ」と冷たくつぶやき顔をしかめた。

私は、その瞬間、
この世に無償の愛なんて存在しない、
ということを理解したのだ。

スプーンで黒蜜をすくい、口に運ぶ。
粘性の甘さを舌で感じながら、私は昔飼っていたカブトムシに自分を重ねた。

「そのカブトムシは、きっと幸せだったと思いますよ。そうやって、あなたに悲しんでもらえて」

彼は微笑む。
彼の知的で優しい瞳の奥に、全てを切り裂く鋭い光が隠されているのを、私は知っている。

所有されて、観賞されて。
そこから逃れる術なんて、存在しないのだ。

私は、大人にならないまま死んで行った、あのカブトムシを思った。




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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
コメント
はじめまして
先ほどは、私のブログにご訪問くださり、ありがとうございます。

もみじさんのショート・ストーリー、いいですね(^U^)
自分もこんな世界が描いてみたいものです。


また遊びにきます。私のブログにも遊びに来てください。たまにでいいのでw
2007/08/11(土) 20:03:49 | URL | たろすけ(すけピン) #-[ 編集]

はじめましてー。
コメント、ありがとうございます。
遊びに来ていただけると、大変励みになります♪

そちらのブログにも、是非また伺わせていただきますので、よろしくお願いしますねー。
2007/08/12(日) 13:26:41 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]

無償の愛っていうものは、必ずしも愛されることを
求めないことも含まれてるような気がします。

お返しがない、実りがないとしても、愛する
ことがそのひとに意味がある場合もあるような。

どうでしょうね?
2007/09/24(月) 21:50:05 | URL | 銀河系一朗 #-[ 編集]

>銀河系一朗さん

コメント、どうもです。

確かに、愛することそれ自体が、その人にとって意味がある場合もあると思います。
物に愛情を注ぐとき、見返りなんか期待しないですし。
人間に対するときも、その人に自分が愛を注いでいるという事実で、もう満足、という場合もあるでしょう。

って、お返事になっているか分からないですが……(汗)
2007/09/24(月) 22:11:28 | URL | もみじ #KKhd1Ueo[ 編集]
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