夢を見た。
夢の中で、わたしは山に登っていた。
地元の低い山だ。
小学生のときに、リュックを背負ってみんなで何度も登った。
その山にはいくつか洞窟があって、夢の中のわたしはその一つに入る。
手に持った懐中電灯で足元を照らし、何か大事なものを探していた。
指輪だった。
拾い上げる。
赤と黄色のビーズの指輪。
あれ、この指輪はまだ、あの宝箱に入っているんだっけな。
混線する、思考。
小学校のとき、同じクラスだった男の子がくれたものだ。
そっか、この洞窟で拾ったって言ってたもんな。
気が付くと、わたしは小学校の屋上にいた。
クラスメイトや、他のクラスだった子、担任の先生、友達のお母さん、音楽の先生、いろんな人がみんな屋上にいた。
わたしが驚いていると、隣にいた友達が耳元で笑いながら教えてくれた。
「香奈ちゃんが来るんだって」
友達は、楽しそうに空を見る。
周りの人たちも、みんな空を見ていた。
空に広がる、入道雲。
わたしの胸は、黒く染まっていく。
わたしは、空の中にいた。
香奈ちゃんは、ジャングルジムのてっぺんからわたしを見下ろしていた。
「早く、登ってきなよ」
香奈ちゃんは、わたしを睨みつける。
わたしの周りで、世界がぐるぐるしている。
「早く」
わたしは必死で声を出そうとしたけれど、声が出ない。
声の出し方を忘れてしまったみたいだった。
「ほら、早くしな!」
香奈ちゃんは、怖い顔でわたしに怒鳴る。
動けないでいるわたしに、香奈ちゃんはしびれを切らしたのか、ジャングルジムのてっぺんから降り始めた。
今だ!
わたしは香奈ちゃんの隙をついてジャングルジムに駆け寄り、死に物狂いでてっぺんを目指した。
香奈ちゃんは、それに気付き慌ててまた登り始める。
いつの間にかジャングルジムはものすごい高さになっていて、わたしと香奈ちゃんは黙々と登り続けた。
ようやくてっぺんに着いたとき、わたしと香奈ちゃんは山の頂上に並んで立っていた。
私は初めて、香奈ちゃんの顔をじっくりと見た。
香奈ちゃんは、泣きそうで、心細そうで、目を見開いて、唇を噛んで、わたしを見ていた。
そうだ、香奈ちゃん家はもう……。
胸がちくりと痛む。
ふっと、目が醒める。
布団から抜け出し、窓を開け放つ。
夜明け前の空が、いつかの記憶を引っ張り出そうとしていた。
携帯電話を握り締めたまま、私はぼうっと窓の外の空を眺めていた。
もう少しで、夜が来る。
足元から忍び寄る冷気が、静かに体温を奪っていく。
けん兄と星を見に行ったのは、……あれは、いつだったろうか。
半年前? いや、もっと前か。
けん兄は買ったばかりの車で、うちまで迎えに来てくれた。
新車のにおいは苦手で、しかも走るのは山道ばかりで、私はすぐに酔ってしまった。
酔って、夢なんだか、現実なんだか、よく分からなくなった。
窓の外は、どこまで行っても木ばかり。
しまいにはすっかり寝入ってしまい、
「着いたよ」とけん兄にゆり起こされるまで、本当にぐっすりだった。
そこは空に向かって開けていて、星が良く見えた。
まるい。
「天球」というものを考えた昔の人の気持ちが、初めて分かった。
私は口を開けて、ただ、ぽかんとしていた。
けん兄は、そんな私を見て笑った。
そのときばかりは、けん兄に笑われるのも気にならなかった。
車の帰り道、私たちはあまり喋らなかった。
でも、何かを共有した親密さのようなものが、そこにはあった。
あったのに。
けん兄にはそれ以来会っていない。
私が大学入学と共に、地元を離れたからだ。
『けん兄が、死んだ』
今しがた聞いたその知らせは、私の中を血液と一緒に駆け巡る。
『最後につぶやいたのは、私の名前』
けん兄め、私に何か恨みでもあるのだろうか。
半年以上も、会ってないのに。
会うたびに、私をからかって笑うのに。
……本当は、知っていたのに。
涙は、止めどなく。
私を癒すためだけに、流れる。
深夜、自転車で街を疾走する。
どこかにいる、誰かの元へ。
僕は、まだこんなだけれど、それでも、
僕のことを愛してくれる誰かがいてくれたら、
って思うんだ。
夜は、優しいね。
月も優しい。
でもね。
僕は、そんなんじゃなくて。
綺麗じゃなくても良いから、『特別』がほしい。
僕だけを。
見てくれたなら。
きっと。
窓を開ける。
秋分を過ぎたばかりの夜に、かすかに混じる冬の匂い。
冬の夜独特のこの匂いは、
あの星たちが放っているのではないか。
気の遠くなる距離を越えて、
届く。
しんと光る星。
その瞬きは、確かな予感に満ち溢れる。
コミュニティ(FC2ブログ内)を作りました!
「みんなで、物語を紡ごう!」ってやつです。
内容は、みんなで一つのお話を作っていこう、という感じ。
良かったら、覗いてみて下さい〜。
というわけで、宣伝でした〜。
本屋で立ち読みをしていると、時間を忘れる。
ふと気付いたときには、文庫本を1冊読み終わっていた。
ため息をつき、本を戻す。
足が疲れた。
「すっごい集中力だねえ」
聞き憶えのある声に、ぼうっと横を見ると、Kが立っていた。
「ずっと隣にいたのに、全然気付いてくれないんだもん」
Kは大きな目で、私の顔を覗き込む。
「ね、ね、ご飯食べに行こう? 夕食まだでしょ?」
私の腕を掴み、そのままぐいぐい歩き出すK。
私は、いまだ現実世界に戻りきらない頭で、嫌な奴に会った、と思った。
Kとは同じアパートだった。
その上、部屋は隣同士。
そして、同じ大学、同じ学部、同じ学年……。
入学した当初はいろいろと仲良くしていたのだけれど、そのうち我慢ならなくなった。
Kはいつも違う女の子を連れて歩く。
……しかも、みんな可愛いかったりするのだ。
「ね、ね、ちーちゃんは、ああいう本が好きなの?」
ファミレスでメニューを開きながら、Kが聞いてくる。
「んー、別に。小説なら何でも読む」
和風ハンバーグと、海の幸ドリアで悩む。
今の私にとって、どちらがよりベターな選択か。
「ね、今度、小説貸してよ。ちーちゃんお勧めのやつ。そだ、ご飯食べ終わったら、ちーちゃんち行って良い? そこで、いろいろ選びたいかも。僕、今……」
よし、海の幸ドリアにしよう。
ぽちっと、呼び出しボタンを押す。ぴんぽーん。
「あ、ちょっと待ってよ! 僕、まだ、決まってないんだから!」
ぱたぱたとメニューのページをめくるKを横目で見ながら、私は玲のことを考えた。
玲は私の友達だった。
大学に入ってできた、最初の女の子の友達。
綺麗で、頭脳明晰で、さばさばした性格の子だった。
私は、玲の大人っぽさに、とても憧れた。
玲と私とKは、よく行動を共にした。
あの日。
『ちー、お願い、あのアパートから引っ越して……』
電話越しのくぐもった声。
玲の緊張感が私の中に流れ込む。
玲は電話の向こうで小さく、自嘲するように笑う。
彼女の完璧さは失われてしまった。
きっと、もう、永久に。
私は「いいよ」と言って電話を、玲やKに関する全ての繋がりを、切ってしまいたくなる気持ちを必死で抑えて、玲と向かい合った。
「君が、うちの敷居をまたぐことは、許さない」
私の言葉にKはメニューを繰る手を止め、ぱちくりと瞬きする。
「そんなぁ、昔は毎日のように、喜んで僕を招き入れてくれたのにぃ。ああ、あの美しい日々……」
毎日、は誇張だった。
「私だって、君が悪いとは思っていない。けど」
「ねえ、ちーちゃん」
Kは真面目な顔をする。
「……僕はまだ、あなたに愛の告白すらしてないんだよ?」
愛の告白。
Kは、私から視線を外した。
「暗い部屋で布団に包まって。耳を澄ませて、小さな音だって聞き漏らすまいって、息をひそめて。毎晩毎晩、壁の向こうで安らかに眠っているだろう、あなたの姿をまぶたの裏に描いて。それが小さな幸せで。……あなたは、そんな僕をずっと避けてる。こうやって言葉を交わすだけで良いのに。それだけで、良いのに。それ以上は、何も望まないのに」
全部、私が悪いみたいに。
私はその罪悪感から、Kを避けるのに。
「君は、誰にだってそうやって愛を告白するんでしょ、色男君? ……ほら、ちゃっちゃと頼むもの決めちゃいなよ」
だって、どうしようもないじゃないか。
私は多分、Kを好きにはならない。
それはもうすでに決まっていることなんだから。
それから私たちは無言で食事し、無言でアパートに帰り、無言でそれぞれの部屋に戻った。
目も合わさなかった。
Kは程なく大学から姿を消し、隣の部屋はもぬけの殻となった。
私は内面はともかく、表面上は普通に過ごした。
失ったもの。
その全体像が今の私には見えなかった。
頭の中に、霧がかかる。
かばんの中で、携帯電話が鳴る。
実家からだった。
最近連絡を取ってない。
何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
通話ボタンを押すのも、もどかしい。
『あ、ちーちゃん? 久しぶりー! こっちにはいつ戻ってくるの? もう夏休みでしょ! お父さんもお母さんも楽しみにしてるんだから、早く帰ってきなねー! それにしても、ちーちゃんって子供の頃から全然変わってないん……』
思わず電話を切る。
なんだ、これは。
体中が、一気に覚醒する。
再び鳴り出した電話を手に、私は、自分がKを甘く見ていたことを知った。
アリがゼリーっぽいものの中に巣を作るインテリアを買ったので、
今日アリを入れた。
8匹。
閉じ込められたアリたちは、ある意味、
異世界に召還された勇者っぽいなぁ、と思った。
それだけ。
彼女は僕以外の男に微笑み、
僕は彼女以外の女の子に笑いかける。
日々鍛えられる、バランス感覚。
彼女は僕を決して視界に入れない。
僕は気付かれないように、そっと彼女の姿を目で追う。
彼女が油断し、僕と目が合った瞬間。
思い切り目を逸らす仕草にさえ静かな喜びを感じてしまう僕は、
きっとかなりの重症だ。
彼女は知っている。
僕が、彼女に暴力的に愛を伝える日に向けて、冷静に計画を練っていることを。
僕は知っている。
視線を逸らした彼女の横顔に浮かぶ、微かな期待の色を。
バランスする、日常。
見えない鳥を追うように。
彼女は、少しずつ、崩壊していった。
僕は、ただ為す術もなく、馬鹿みたいに「愛してるよ」って。
それだけを。
毎日、それだけを繰り返して。
ただ、繰り返して。
僕は。
その朝。
光は彼女を包み。
僕は幸福なその光景に、一瞬全てを忘れて息を飲んだ。
「どこに行ってしまったのかしら?」
彼女は窓の外を覗き込み、小さくつぶやく。
「どこに」
彼女は立ち上がり、窓を開け放つ。
広げた両腕は、まるで鳥のように……。
僕は、彼女を後ろからきつく抱きしめた。
彼女が、彼女の森で、ずっと探し続けているのは僕。
僕。
かつての、僕、なんだ。
彼女はレプリカ。
彼女の声は、レプリカ。
彼女の笑顔は、レプリカ。
彼女の上目づかいは、レプリカ。
彼女の話題は、レプリカ。
彼女の趣味は、レプリカ。
レプリカ。レプリカ。レプリカ!
何も映さぬ空虚な瞳の彼女をもてはやすのは、だあれ?
あしあと帳を作ってみました。
基本的に何を書いても良いので、今の気持ちを一言!
雑談に使ってもオッケーです♪
「君は、まだ分かっていないんだよ。この世界の仕組みを」
ナオは両手を広げる。
天を仰ぐ。
「この風は僕のためにふいているし、あの太陽だって僕のために輝いているんだ」
ナオは笑う。
無邪気に。
「だからね、君も。……君も、僕のために咲くんだよ。誰よりも美しく、誰よりも可憐に。それが君の幸せなんだ。君は将来、きっとそれを噛み締めることになる」
人は皆、彼が神だという。
でも。
わたしの中の神は、わたしに囁くのだ。
この世界の真実は。
わたしは冷たい銃口をナオに向ける。
「ねえ、奇跡を見せて?」
たくさんの弾丸がわたしを貫いた。
業務連絡です〜。
明日から実家に帰省するので、更新が数日間ストップする予定です。
来週半ばには復帰する予定でいます。
久しぶりの連休……。
命の洗濯。
(本当に久しぶりの休日だったこの前の日曜日は、『扉の外掘戮肇┘凜,留撚茲能わってしまったので……)
当ブログをいつも覗いてくれている方々に、感謝。
皆様に、たくさんの幸せが訪れますように。
では。
その少女に会うのは、二度目だった。
長く綺麗な黒髪は目を引く。
僕はベンチに腰掛け、無意識にその少女を目で追っていた。
少女は無言で、僕の隣に座った。
「お兄さん、リストラされたの?」
少女は、開口一番そんなことを言った。
「若い人が、こんなところでぶらぶらしていてはダメなのよ?」
なかなか大人びた口を利く。
僕は苦笑した。
「僕は大学生。今は夏休みだから、良いんだ」
よくよく考えれば、夏休みだからといって、毎日公園をぶらぶらしていて良いわけではないのだけれど。
少女は僕のほうをちらっと見て、またすぐに視線を足元に落とした。
「……そう。私はリストラされたのよ」
重々しく、ため息。
いかにも深刻そうだった。
僕は、そんな少女の様子に思わず笑ってしまう。
少女は僕に非難の目を向けた。
「ごめん、ごめん。……それで、誰にリストラされたんだい?」
笑いを噛み殺しながら、尋ねる。
少女はつま先で小石をもてあそびながら、ぽつりと。
「お母さん」
僕は、少女を見る。
「お母さんは、私にリストラだ、って。お父さんは、いつまで経っても迎えに来てくれないの。絶対、迎えに来るからね、って言ったのに」
少女は、それでも泣いてはいなかった。
目にたくさんの涙を溜めて。
それでも泣かなかった。
「……早く大人になりたい?」
空を見る。
「僕は、早く大人になりたかったんだ。昔は、子供ばっかり我慢しなくちゃいけないくて、大人はずるい、って思ってた」
少女は、僕を見る。
黒目がちの瞳は、とても知的だ、と僕は思った。
「でも、大人と子供の境目って、ものすごく曖昧だったんだ」
僕は少女の顔を覗き込む。
「ねえ君、……君はずるい人間には、決してなるな」
少女は、頷きもせず、ただ僕を見ていた。
どれぐらいの間、視線を交わらせていただろうか。
少女はベンチから立ち上がった。
「ねえ、お兄さんは、私が大人になる頃には、どこにいるのかしら?」
少女は前を見ながら、ぽつりとつぶやく。
僕も、つられるように前を見た。
僕は、ただただ、子供の頃感じた大人への果てしない道のりを思った。
深く、息を吸い込む。
そこは水の底で、わたしは魚になる。
天を、水面を仰げば、きらめく光。
一気に上昇。
加速する、体。
水は、粘性を増す。
過去の自分を思い出す。
完璧なんて、なくなってしまえ。
やつらは、ただ、世界の広さを知らないだけ。
デジタルな、すかすかの頭から零れ落ちるものが、見えないだけ。
わたしが誰かなんて、どうでもいい。
ただ君は、自分が生きていることを思い出せ。
連載モノをやりたいのですよ。
連載モノで、恋愛モノで、学園モノをやりたくなってしまって……。
今日、突発的にですが(笑)
だがしかし、連載って結構、覚悟が必要だったりするわけで。
なかなか……。
終わらせなくて良いなら、好き勝手するんだけれど、ね。
でも、たぶん始めてしまうんだろうな……(笑)
なんか、最近、短いのばかり書いてたから、
設定をたくさん詰め込むっていうのをやっていなくて、ちょっと寂しいのです。
「こんなにも、好きなのに」と、君は言う。
わたしは、そうなんだ、と答える。
君は恨めしそうに、わたしを見る。
父さんも。
母さんも。
隣の家に住んでいた、お兄ちゃんも。
みんな、そう。
みんな、勝手に、わたしに感情をぶつけて、
わたしの体から、無理矢理にでも何かを奪っていこうとするんだ。
わたしは、ひとりで、こんなにも完結しているのに。
そんなものが「愛」だと君が言うなら、
わたしはひとこと、
『愛ってやつは、惨めだね』
雨。
濡れた緑が、窓の外で鮮やかに揺れる。
空は、しかし、この家の中よりは明るい。
ナツメは縁側に腰掛け、静かに外を眺める。
僕はナツメに、温かい紅茶を淹れる。
雨のこちら側で、たぱたぱ、と心地よい音。
湯気が香る。
「はい」と僕は、ナツメの傍にティーカップを置いた。
映る緑。
ナツメはそれをちらりと見遣り、再び外に目を向ける。
「あんたは、いつだって、ヘラヘラしすぎなのよ」
ナツメは、視線を前方に固定したまま、僕を睨んだ。
僕は、ナツメの吐き出す言葉の棘に、微笑む。
「そうやって、いつだって」
ざあ。
風が吹く。
雨の音が、僕らを支配する。
強く。
雨は、自由。
行過ぎた愛は、無数の棘となって、僕の胸を刺すのだ。
しびれるように。
甘く。
僕をこんなにも。
こんなにも。
『……あたしたちは、姉弟だから。』
いつかの、大人びた横顔。
燃えるような。
深い、緑。
「姉さん、愛してるよ」
ナツメは、ばっとこちらを向く。
鋭くしようとした、その瞳は、揺れて。
僕の甘い言葉は、棘となって、ナツメの胸を刺すだろう。
苦く。
思い切り、痛く。
決して忘れられないぐらい、に。
僕は微笑む。
どうか、僕の棘で、ナツメにたくさんの、消えない傷がつけば良いと。
僕は、微笑む。
……それは、祈りにも似て。
「空に住みたい」と言った彼女は、
もうすでに空に住んでいるんじゃないかと、僕は思った。
いつでもかみ合わない僕たちは、手を繋ぐ。
心が違う場所にいても、お互いの体温は届くんだ。
理解し合えなくても、視線を絡めることはできるだろう。
笑い合うことはできるだろう?
僕は、君の深さに魅せられてしまった。
覗き込んで、どこまで潜れるんだろう、って。
深く、深く。
ねぇ、僕たちが、本当に出会える日は、いつかやって来るのかな?
「空に住みたい」と言った彼女は、もうすでに僕のいない空に住んでいる。
いつか、僕が訪れたら、「なんで来たの?」って、不思議そうに首を傾げるだろう。
僕は答えずにただ笑って、彼女の隣で、彼女の空を眺めるのだろう。
想いを飛ばせば。
ああ、そうだ。
想いを飛ばしさえすれば、いつでも会える。
ここではない、どこか。
いまではない、いつか。
来た道も、帰る道さえも、僕は忘れてしまった。
だけれど。
いま。
ここに。
存在することを許されている僕は。
僕は。
なんて、幸せなんだろう。
ああ。
いま、ここに、生きていることその事実が、祝福。
あなたの祝福。
何よりも、あたたかい。
6〜8日は、確実に更新が止まります。
飛行機で、どこかへ旅立っているので〜(笑)
というわけで、実生活のほうが、なかなか荒れています……。
あと、少しの辛抱だ。
思えば、この3週間、休日なしの日々でした……。
お盆も帰省できなかったし。
と、まあ、そんな感じで、業務連絡でした〜。
痛くて、胸が痛くて。
泣きたくて、放り出したくて。
ああ、なんて遠くまで来ちゃったんだろう、って。
あの頃聴いていた音楽に凝縮した、日常。
毎日、どんどん塗り変わっていく。
わたしが、塗り変わっていく。
知ったかぶりしたって、戻れる過去なんてなくて。
もう、確かめることすらできないんだ。
過去は、この世のどこにも存在しない。
頭の中にだけ。
そんなの。
なんて、不確か。
過去と今が繋がってるなんて、きっと嘘。
琥珀。
閉じられた、一瞬。
永遠。
その美しさにただ、
眩暈。
寒い朝、秋の予感。
蝉は、力いっぱい、鳴く。
空は、やわらかく青い。
私は、いつの間にか電車に乗っていた。
高校時代、毎日通学に使っていた、田んぼを突っ切る電車。
電車の中には、私のほかに誰もいなくて、「ああ、私は死んじゃったのかな」となんとなく思った。
車内には午後の柔らかい日が差し込み、眠たげで、私は静かな幸福を感じ目を閉じた。
がたんごとん、とかつて慣れ親しんだ振動は、久しぶりの私を甘やかす。
本当は、知っている。
知っているんだ。
電車はこのまま、母校に私を連れて行くだろう。
そこで私は、たくさんの、さよならをしなくちゃいけない。
お葬式なのだ。
これから、私は私を殺しに行く。
私は黙って、私を受け入れるだろう。