白い月という球に

思うまま、わがままに。適当に書き連ねる、つくりものたち。 コメント・トラックバック歓迎です♪

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一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ただ、「そのとき」が来たのだと思った。

宙に放り出され、私が右手で掴んだのは、桜野の左手。
私たちは、すごいスピードで堕ちて行った。

限りない、夜へと。






桜野と君島の二人は、かなりのペースでアルコールを摂取していた。

サークルの飲み会では決して飲みすぎたりすることのない君島だった。
が、声の調子から、明らかに酔っぱらっているのが分かった。
ひそやかな、声。

私は少し心配になり、そっと下の様子をうかがう。


二人は寄り添っていた。

思わず動きを止めてしまった私の姿を、桜野は。

口元に笑みを浮かべた、そのままで。
見上げる。


やつは、挑発するように目を細め。
そのまま流れるように視線を君島に向ける。

「霧華ちゃん」

君島の耳元で囁き、そのまま耳たぶに口づける。

「零人先輩……」

とろんとした、君島の黒い瞳。
桜野は静かに君島の唇を奪い、そのまま彼女を押し倒す。

君島の髪がつややかに広がった。
思考停止の空白。


桜野は再び口づけ、
触れるか触れないかのそのままの姿勢で、熱っぽく何事かを呟いた。

私は、君島の目が見開かれるのを、見た。


その、瞬間。
いきなりの解放感。


私は、夜に放り出されたのだった。





ひたすら堕ち続けながら、
桜野と繋いだ右手がどうしようもなく熱くて。

私はただただ、夜の底を真っ直ぐに見つめていた。







つづく
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鍵を回す音がした。

ぼうっとしていたようだ。
目を開けたまま、眠っていたのかも知れない。
……私は、よくやるのだ。



扉が開く音。
外のざわめき。

桜野と君島の話し声。
がさごそとビニールの袋が、たてる音。

二人の息遣い。

扉が閉まる音。



桜野と君島が部屋の中へと入ってきた。
がこん、と桜野は、持っていた袋を床に置く。

「寒いね~、ストーブつけるね♪」
「……はい」


桜野はストーブをつけた。
これで、こちらもすぐに暖かくなるだろう。

ロフトの奥で小さくなって息をひそめて寒さに震えている自分のこの状況に、苦笑する。

扱いが、ひどすぎやしないか?


「すいません、荷物全部持たせてしまって……」
「気にしなくて良いよん♪ 女の子に重いもの持たせられないし~」

二人は、そわそわと初々しく。
コートなどを脱ぎ、こたつに収まったようだ。

袋から、物を取り出す音。
がこん、と重い音もする。お酒か何かだろう。




「でも……なんだか、鈴音ちゃんに悪いような気がします。私だけ、お邪魔しちゃって……」

ふふ、と桜野は笑った。
「いいんだって♪ レインにはテレビゲームという素敵な恋人がいるんだから」

「そうですか……。でも、たぶん、……鈴音ちゃん、零人先輩のこと、好きだと思うんです」

「ええー。それはないって!」


「でも私、子供の頃から、人の心とかに敏感で、分かるんです……。鈴音ちゃん、零人先輩といるとき、すごく楽しそうだから」
「んー。霧華ちゃんがそう言うなら、そうかも知れないけど。……でも、僕、レインは可愛い後輩だと思ってるけど、そういう風に見たことないしなー」

桜野は、そこで一旦口をつぐむ。
共犯者めいた、親密な沈黙が下りる。



「だって、レイン、全然女の子っぽくないしー。正直、レインを好きになるとか、ありえない」

「……零人先輩、なんか、ひどいです。私、鈴音ちゃんに、告げ口しちゃいます……」
「え、ちょっと待って。霧華ちゃん、それ、なしだよー!」

暖かくなり始めた部屋を、二人の笑い声が満たす。
乾杯、と缶を開ける音がした。






私は、目を細める。

桜野は、部屋に私がいることを知っている。
全部知ってて、朗らかに笑っているのだ。


私の不本意な胸の鈍痛も。
……それを、素知らぬ顔で押さえ込もうとしていることも。

きっと、全部。









透きとおった、夜の底。(18)を読む。

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鍵は何事もなく、鍵穴にぴた、と密着した。
そのまま、がちゃり、と回し、扉を開放する。

中に入り、音を立てないよう注意深く扉を閉める。

息をつく。




桜野の部屋は、暗く、ひんやりとしていた。
窓からもれるわずかな光は、しんとした静寂を引き立てる。


私は脱いだ靴を手に持ち、部屋の奥へと入っていった。
部屋の中央に立ち、窓の外を見る。



携帯が、鳴る。
桜野から、メールだ。

油断していたから、一瞬、びくっとしてしまった。
電源を切っておかなければ……。



『あと15分で着くよ♪ レインは?』

『もう、先輩宅です。』
『オッケー♪ ぐっどらっく』



……軽く、脱力。
何が、ぐっどらっく、だ。

コンビニで買い物をしてもらっておいたビニール袋に、靴を半ば無理矢理に詰め込む。
袋は、どう見ても小さかった。

「…………」



まぁ、そういうこともある。
気を取り直して、ロフトへと上るはしごに手をかけた。


天井が近い。

ロフトには、綺麗にたたまれた毛布と、……その上には紙のようなもの。
ちょこんと、置かれていた。



   レインへ 

   また「そのとき」に。
   「そのとき」は、そのときが来ればきっと分かるから。  

                                      』



…………。

桜野は、普段はめちゃくちゃお喋りなくせに、メールとかメモとか文字で書くとなると、途端にかなり淡白だ。


それは、ある意味、やつの性格を良く表しているのかも知れない、と、ふと思う。

やつも、ピエロだから。




じっとしていると寒い。
桜野が用意した毛布に包まる。



「?」
メモの裏に何か書かれていることに、気付いた。


『追伸  寒いでしょうから、僕の愛情たっぷりな毛布に包まって身体を温めて下さいね』



……さすがの私も、毛布を投げ出して、身体を冷やすようなことはしなかった。

いや、寒かったから。







「……桜野零人のにおいがする」









透きとおった、夜の底。(17)を読む。


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子供の頃から、鏡が苦手だった。
写真も、だ。

鏡の中の自分、写真の中の自分を見るたびに、私は思い知らされるのだ。
……自分の瞳に宿る、あまりにも致命的な空虚さを。





この後、桜野たちは、通り道のスーパーで買出しをする予定だ。
私は、その間に桜野の部屋に侵入し、ロフトに身を潜める。

桜野に指示されたことは、それで全て。
具体的にそこで何をするつもりなのか、やつは言わなかった。


そして、その作戦行動に伴い、桜野の部屋の合鍵も受け取っていた。


「レイン専用の鍵だから、返さなくて良いんだからね♪」という言葉とともに。

……作戦が終了した暁には、やつの部屋の郵便受けに強制投函しようと思う。
うん。それがいい。


桜野の部屋には、前にサークル仲間、何人かと押しかけたことがある。
場所は把握していた。





ぶらぶらと夜の道を歩きながら、私はまた空を見上げた。
子供の頃からの、癖みたいなものだ。

星たちの、しんとした光に心奪われる。
いつだって。

何度だって。



子供の頃と、一体、私の何が変わったというのだろう。

私は相変わらず、にこにこと「天使みたい」なピエロを演じている。
吐き気がする。



例えば、他人の痛みが分かる人を、心優しき人とするならば。
……その人は、なんて厄介な存在なのだろう、と思う。

他人の痛みを癒そうが、……他人の痛みにつけ入ろうが、結局、その傲慢な性質は変わらない。

そんなの、結果から見れば、他人の弱点をサーチして自分が優位に立とうとしているだけじゃないか。
たとえ、本人にその自覚がなかろうとも。


……いつかの笑顔。
よぎる。

私は、軽く、頭を振る。






「大丈夫だよ。心配しなくても、天使みたいなレインは、『ソフィア』にぴったりだから♪」

分かっている。
だからこそ、私は、拒絶する。









透きとおった、夜の底。(16)を読む。

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「あー、飲んだ飲んだ♪」

火照った身体に、秋の夜の空気は切るように冷たい。

月が空の高いところに浮いていた。
その小ささが、遥かな距離を感じさせた。



「霧華ちゃん、霧華ちゃん、この後、何か用事ある?」

私の後ろで、桜野が切り出した。

「え……特にないです……が」
「じゃあさ、もし良かったら、この後うちで二次会やらない?」

少しの、間。

「えと、零人先輩が良いなら、是非……」
君島はためらいがちに、答える。
こちらを伺う、気配。


私はくるっと、元気良く、二人のほうを振り返る。
予定された動き、だ。

「良いですね、二次会! 朝までコースですか~?」

桜野は、私の言葉に口を尖らせた。

「んんー。レインは呼んでないもーん! 僕は霧華ちゃんと二人で飲み直したいの!」

「ええ~、桜野先輩、ひどいですね……。良いですよう、私、家に帰ってゲームしますから~」

君島の表情をちらっと確認し、からっとした笑顔を作る。

「じゃ、そういうことみたいだから、霧華ちゃん、気をつけてね? 変なことされそうになったら、ちゃんと声上げるんだよ? なんだったら、思い切り、殴っても良いし……」
「ちょっと、レインこそ、ひどくない~?」
「きゃははっ」

少し、離れる。

「それじゃあね、霧華ちゃん、今度は二人で飲もうね!」
「はい……鈴音ちゃんも、気をつけて……」
「レインも、ゲームばっかしてちゃダメだよ~♪」
「……大きなお世話です」


二人並んで、にこにこと、こちらに手を振る。

二人の視線を背中に感じながら、私はぶらりと自分の家のほうへ歩き出した。
やや覚束ない足取りを装いつつも、酔いは完全に醒めていた。


……君島が今日初めて、私の名を呼んだ。
頬を染めて、嬉しそうで、少しの優越感に近い感情が混じった表情に、胸がちくりと痛む。

霧華ちゃん、ごめん。



私は空を見上げ、心に冷え冷えとしたものを感じながら、今夜の計画を反芻した。
そう、夜はこれからだ。






透きとおった、夜の底。(15)を読む。

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桜野零人と、私と、君島霧華と。

通されたのは丸いテーブルで、私たちはそれぞれが正三角形の頂点となった。
君島はミルク系のカクテルを、桜野はウィスキーの水割りを、私は焼酎ロックを持って、「初三人飲みを祝して」乾杯をした。



会は和やかに進行した。

「レイン、レイン、あれやった? あの、最近出た最新作!」
「あー、エイトですか? やってますよ! ヒロインめちゃくちゃ可愛いです!!」
「レインって、いつも、そういうとこばっかり見てるよね~」


「えと……服がとても凝っているゲームのことですか……?」

「そうそう! って、あれ? 霧華ちゃんもああいうゲームやるの~? すごい、意外だ……」
「ほんと! ゲーム馬鹿なレインならともかく、霧華ちゃんとRPGって、かなり異色な組み合わせかも♪」
「ゲーム馬鹿って、なんですか~」

「いえ、私じゃなくて……弟がやっているのを横で見ていました……」

「あー、霧華ちゃん、弟さんと一緒に住んでるんだもんね~。納得~」
「レインもさ、霧華ちゃん見習って、ゲームは僕に任せなよ! 僕が遊びに行くと、いつもレインばっかゲームやってるし~」
「別に、ゲームなら、自分のとこですれば良いじゃないですか」
「一人でやっても、つまんないもーん」

「お二人、とても仲良しさんなんですね……」
君島は、にっこりと笑う。

「ええー、全然そんなことないよ~。ねえ、レイン?」




…………。

会は、おおむね、和やかに進行した。

時折、微かな緊張が走る。
発生源は、君島霧華。


気付かない人は気付かないぐらい、ささやかな温度の変化。

……が、遺憾ながらそういうものに、私はとにかく敏感なのだ。
桜野も普通に、気付いているだろう。



この空気は、この場だけの話ではなく。
ここ最近、サークルの活動中でも、密かに繰り広げられている光景だったりする。

桜野が君島に話しかけられたときに、何も気にせず私に絡むのがいけない。




「僕的レッドゾーンに突入しちゃったから」

焼酎の残りを流し込みながら。
私は、昨夜の桜野の言葉を、じんわりと思い出していた。









透きとおった、夜の底。(14)を読む。

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『ソフィア』
その名を、初めて桜野の口から聞いたのは、いつだったか。
たぶん、合宿の前だ。



その日、桜野は私の部屋で、ごろごろ漫画を読んでいた。
私は桜野の存在を完全に無視して、パズルゲームに興じていた。
無言の部屋に、明るい電子音が響く。

私は、存分に、持ち前の集中力を発揮していた。


ふと気が付くと、桜野がいつの間にか無言で私の隣に座っていた。
体育座りだった。
そして、なんだか、やたらと近かった。




「……レイン、『ソフィア』って知ってる?」
桜野は、視線をテレビ画面に注いだまま、ぼそっと口を開いた。

私は仕方なくゲームを中断して、桜野に向き直りつつ距離をとった。


「『ソフィア』、ですか? なんですか、それ」
「んーと、組織、かな。なんというか、……うん、心優しき人々」

桜野の口調は、歯切れが悪かった。
目は相変わらず、止まった画面に固定されていた。


心優しき人々。
その言葉が、私の中でこだまする。
こころやさしきひとびと。


「レインは『ソフィア』の一員になる資格があると思う。……うん。今度、ターゲットが決まったら、またそのときに説明する」

そう言うと、桜野は一方的にその話題を終わらせ、玄関から帰っていった。




唐突に、一人になった部屋の中。
私は、最後にちらっと一瞬だけ私の顔を見た桜野の表情を、じんわりと引きずっていた。

その表情が、なんというか、いつもの桜野らしからぬものだったから、印象に残ったのだった。
口調も、いつもの桜野ではなかった。




……だから、断りそびれた。


心優しき人々。
私は、そんなものに、関わりたくなんてないんだってこと。


だって、桜野と私の共通の性質を考えれば、分かりきったことじゃないか。
『心優しき人々』が、どんな人々なのか。

具体的に何をする組織なのかは、分からない。
でも、根っこの部分は、分かりすぎるほど分かる。
思い込みかもしれない。

……でも、私の中には、静かな確信があった。



桜野が見せた最後の表情。
……あの、こちらを窺うどこか心細そうな桜野の表情を、なかなか頭から消去できなくて。


私は一人唇を噛んだ。








透きとおった、夜の底。(13)を読む。

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遠目に見ても、君島霧華がいつもより身なりに気を使っているのが分かった。
まぁ、彼女の場合、普段もかなりきちんとした格好をしているのだけれど。

その目は、ぼんやりと人々の往来に向けられている。




「じゃ、打ち合わせどおりにね♪」
小さく言うと、桜野は君島のほうへと駆けて行った。


ため息をつく。

……ここまで来たら、やるしかない、か。
私は覚悟を決めて、二人のほうへと向かった。



が。


「ごっめーん、待った?」
「いえ、今来たところです……」

走り寄った桜野に、君島は頬を赤く染め控えめに応える。
私の目の前。



…………。

……いや。
私、やっぱり、この人たちとは、本当は一瞬でも同じ場所に存在したくない。
うん。





「霧華ちゃん、こんばんは~」

近くに行って声をかけると、君島はきょとんとした顔でこちらを見た。
私を認識した、その瞬間。


「霧華ちゃん、今日も可愛い~。 なんか、この3人で飲むのって新鮮だ……。桜野先輩、ナイスです!」
「でしょ、でしょ。レインもそう思うでしょ? 絶対、楽しいと思うんだよね~♪ 僕、両手に花だし! ……あはは、霧華ちゃん、驚いてる驚いてる」


「え……と、すごくびっくりしました……」
君島は目を細め、にっこりと笑った。





……君島霧華が「天海鈴音」を認識した、その瞬間。

君島の顔に浮かんだその表情の意味するところは。
きっと、彼女自身も分かっていないんじゃないかと。


私は、気付かない振りをしたのだ。

いつものように。








透きとおった、夜の底。(12)を読む。

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適当に時間を潰して、17時54分に時計台前に行くと、すでに桜野零人が待っていた。
昨日とは、また違う帽子をかぶっている。
……やつは一体、帽子をいくつ持っているのだろうか。

時計台とは言うものの、大学キャンパス内にあるその時計は、長い棒に文字盤がついただけのつくりをしていた。
ただ「時計」と呼べば良い感じなのだけれど、学生は皆「時計台」と呼んでいる。

これが、いわゆる、伝統というやつだろう。




「こんばんは」
私が声をかけると、桜野は思いっきり不満そうな顔をした。

「ちょっと、レイン? こういうときは、『待たせちゃって、ごめんなさいっ』ぐらい言ってくれないと……。僕が爽やかな笑顔で、『ううん、今来たとこ!』って言えないでしょ!?」

桜野は『待たせちゃって、ごめんなさいっ』のところを、よく分からない裏声を使って表現した。
もしかして、私の声まねか……?


「……そういう下らないことは、一人でやって下さい」
「えーー。これやりたくて、わざわざ早く来たのにいーー」


桜野は昨日と寸分違わず、ふざけたやつだった。





街中へと並んで歩きながら、私は桜野の計画を大雑把に聞いた。
とりあえず、これから君島霧華と合流するらしい。

…………。

「……先輩、一つお聞きしますが、君島さんは私が来ることを知ってるんですか?」
「えー、言ってないから、知らないと思うよ♪」

……やっぱり。


「それって、君島さん、普通に先輩と二人きりでデートするつもりで来るってことですよね?」
「……そうね。もしかしたら、そういうことになるかも♪」

恐る恐る言った私に、桜野は横目でこちらを見遣り心底楽しそうに答えた。
こいつ、絶対、わざとだ……。


これから執り行われる三人飲みのことを考え、私はいっきに、気分が重くなるのを感じた。









透きとおった、夜の底。(11)を読む。

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2コマ目が一緒だった友達と学食でお昼を食べていると、携帯電話が鳴った。
桜野からのメールだった。

『時計台前に18時に来てね♪ 時間厳守』


内心、桜野とは、出来うる限り関わりたくなかったが、そうもいくまい。
……というか、行かないとか言ったら、正直、何をされるか分からない。
本当に。






「天海鈴音(アマミ・レイン)? どうした、いきなり固まって」
倉木真琴(クラキ・マコト)は箸を止め、切れ長の眼で私の顔を覗く。

「あ、ごめんね、なんでもないんだ。……ただちょっと、いやぁなメールが来ちゃって」


倉木は少し首をかしげ、考えるそぶりをした。
「……ああ、例の先輩だな」
鋭い。


「そう。……正直、かなり、行きたくないんだけど」

18時に待ち合わせて、一体、やつは何をするつもりなんだろうか。
まさか、ただの食事というわけではないだろう。

……しかし、その可能性も含め、あらゆる可能性を捨てきれないのが、桜野零人というやつなのだった。



「大変だな、天海鈴音も。まぁ、また、楽しい報告を期待しているよ」
倉木は口元を斜めにし、心底楽しそうに私を見た。


うん……。
なんだって、こう、私の周りにはこういう感じの人ばかり寄ってくるんだろうか。


「それは、まぁ、いわゆる、類友ってやつだ」
「真琴ちゃん……心の声に、わざわざ答えてくれなくていいから」

お味噌汁をすする。



「天海鈴音は、面白いからなあ」

「……それ、もしかして、誉めてるの?」
「誉めてる、誉めてる」
「…………」



こうして、倉木とのランチタイムは、終始和やかな雰囲気の下、進行したのだった。









透きとおった、夜の底。(10)を読む。

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